《古書・古本の出張買取》 奈良・全適堂 | 日記 | 加藤楸邨『句集 怒涛』(花神社)より


2023/10/23
加藤楸邨『句集 怒涛』(花神社)より




昭和61
「寒雷」主宰
第十句集

たんぽぽのぽぽと絮毛のたちにけり

斧あげて風におどろくいぼむしり

咳をしてをれば猫きて嚏せり

躓きて雁の別れのもう見えぬ

残雪に手を拭ひけり与謝峠

月さして青柚子は葉とわかれけり

芭蕉忌を一日おくれてしぐれけり

透きとほる白魚の胎火事の中

蜂に螫されし男の顔の置きどころ

蝉の音の棒の折れたるごとく止む

落日と柿の柿いろばかりかな

すれちがふ子につけられぬ草虱

陽炎が消え団子屋のそこにをり

あらがへる背骨一本青あらし

心動けば身ほとりの寒みな動く

指紋ひとつ羽蟻つぶれし戦時の書

雪降ると兎の風船だけが赤

蠛蠓をつつきりてきし笑顔かな

見てゐたるところから雪降りはじむ

木枯や生き残りたる面構へ

薔薇剪れば夕日と花と別れけり

視野の端に蝶をり論理まとまらず

歩きをり視野に木のなき兜虫




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