《古書・古本の出張買取》 奈良・全適堂 | 日記 | 九鬼あきゑ『句集 海へ』(角川書店)より

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《古書・古本の出張買取》 奈良・全適堂 の日記

九鬼あきゑ『句集 海へ』(角川書店)より

2021.05.11




2019年。
「椎」主宰。第4句集。

触れてみて落蝉に怒られてゐる

花の下空の深さに打たれけり

蝉時雨五體共鳴して止まず

鶏頭は鶏頭のまま立つてゐる

流鏑馬の少年に天高かりき

鴨は鴨鷗は鷗暮れてゆく

平らなる海従へて飾舟

百歳の景色とはこの春の海

つばめつばめ空に漣あるごとし

御嶽も牛も貫禄見せて夏

にこにこと虎魚の鰭の話かな

長加みな空也のごとき口を開け

太刀魚の銀を飛ばして糶られけり

目高にも御慶を申しゐたりけり

雨二日二日うれしき水馬

葉桜や父ののこせし設計図

蟇いつもの顔で来てゐたる

草がゆれ木がゆれ盆の来てゐたり

一団の鴨一団の鴨へ着く

白鳥来太古のやうな空を連れ

初夕日一湾を染めぐらぐらす

したたかに狂うて見たき朧の夜

墓守はあの高き木の青葉木菟

鳴けるだけ鳴く生國の時鳥

全景の鴨なにものも交へずに

初夢のなか楸邨もその猫も

万象のなかのわが杖初鶯

言葉なき祈りの日々よ花は葉に

空よりも海の応へし大花火

夏落葉こんなに積もるとは知らず

恋猫の声ともならぬこゑ通る

修羅を生き仏を生きて山桜

鳥語みなどれも短し五月雨るる

ほうたるのうしろの闇の美しき

生國や蟹ぞくぞくと出没す

黙祷はひとり八月十五日

秋茜そんなに飛んで来なくとも

豊胸の土偶一体良夜かな

白鳥の白はまったき白ならず

さざなみの上をさざなみ去年今年

金縷梅の黄のもぢやもぢやを囃しけり

蝶二頭まだ眼裏を翔けてゐる

青葉木菟ほうと応へてそれつきり

返り花一つがよしと誰か言ふ

コンドルと黙分かちあふ冬帽子

八十八夜しづかに一人貫けり

いつからか秋風鈴となりゆけり

芋の露どれも楕円と成りたるよ

初景色わけても海のかがやけり

初夢の象の歩みに従へり

蒼茫の海めぐりきて初硯

敗戦日太平洋の鳴りに鳴る

涅槃図のどの顔もまだ泣き足らず

笋や同じこゑして兄弟

晴もよし褻もよし泰山木の花

佛頭も吾も近江の夕立中

今日の月海も弾んでゐたりけり

枯蓮田もう何もゐず何も来ず

詩の水脈の端に生かされ年迎ふ

生も死もこの一本の山桜


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