《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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正座・静座
2011.02.12
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最近読んだ本の話を。
あまりにも動かないので生体活動に支障を来たすと感じ、以前から呼吸法をやっていた。
「調和道呼吸法」という明治の藤田霊斎が創始したもの。
最近、藤田霊斎と並んで三大呼吸法を創始した一人、岡田虎二郎の「岡田式静座坐法」を読んだ。
大正2年のものだが、明治45年に初版が出されて43版となっておりベストセラーであった。
今もある実業之日本社発行。
岡田氏自身は本を書いていないので、その弟子が記録したものである。
そのため、岡田氏礼賛が延々と続き、なかなか本題が始まらない。
静坐法は座禅に通じるただ坐るというもので、呼吸法を含んでいる。
見た目は正座だが、足を深く重ねるなどいくつかの相違がある。
こういうものが流行するのは何時の時代も現世利益を求めてのことで、ここではまず病気治癒が第一となる。
病気は結果的に治るものだが、静座をすれば治るということで続々人が集まってきた。
宮沢賢治も人を通じて静座法を教わったらしい。
しかし、この岡田氏自身が49歳であっけなく死んでしまい、門下生は蜘蛛の子を散らすようにいなくなり、今はそれをする人もほとんどいない忘れられた存在になっている。
岡田氏の言葉
・自己から始まるのは一である。科学から始まるのは二である。静坐はゼロである。
・一呼吸一呼吸に自己と言う大芸術品を完成せよ。
静座は方便であるとも語る。
見知った人の言葉である。
続けて『正座と日本人』丁宗鐵著(講談社)を読む。
これも実におもしろい。
正座の歴史を丹念に調べ上げ、実は正座は100年程度の歴史しか持たないという。
日本人は立て膝か胡坐で江戸時代までやってきた。
江戸も中期から武士や町人に少しずつ広まってきたようだ。
福助人形の正座も江戸中期から見られるという。
畳は江戸時代は高価なものであり、今よりもやわらかかったそうだが、その普及に従って正座も広まっていく。
しかし、西洋スタイルの普及と、現代は鉄筋作りの家がほとんどとなったため、湿気を帯びやすい畳は廃れていき、正座もまたそれに比例する。
正座で行うべきとされる茶道も、実は千利休は正座を想定していなかったするのがおもしろい。
茶室の作りや花台の位置の視点など多様な視点で精査する。
明治に茶道が廃れるのを防ごうと取り入れた立礼(椅子に座って行う)が、すでに利休によって試みられていたのではないかと。
著者は東洋医学の開業医でもあるので、正座のメリット・デメリットを医学的に説く。
<メリット>
1・集中力が高まり、精神が充実する
下肢に向かう血流が急激に脳に向かうことから。
2.眠気が覚め、認知症を防ぐ
3・心臓・肺・横隔膜など内臓の負担が軽くなる
4・消化力が高まる
5・肥満やメタボリック症候群を防ぐ
6・膝の周辺の靭帯や筋肉が強く、かつ柔らかくなる
7・股関節、膝関節、足関節の3つの間接の可動域が広がる
8・肛門括約筋をはじめ、骨盤と内臓を支える筋肉が鍛えられる
9・側幅血行が盛んになって、下肢の冷えが少なくなる
10・姿勢が美しくなり、発声にもよい
<デメリット>
1・足がしびれて、つらい
2・関節炎や膝関節症を起こす可能性がある
3・運動障害を起こすことがある
4・ロングフライト血栓症を招くことがある
5・脳血管障害を起こすことがある
6・腰痛を引き起こすことがある
適度な正座は腰に負担を与えないが、正座のままお辞儀を繰り返したりすれば悪くなるということ
7.肩凝りを招く
日本在住の茶道を学ぶ外国人が生まれて初めて肩凝りになった話があり、帰国するとすっと治った。母国で茶道を教えだすと肩凝りが再発したとのことで、正座がその要因だとする。
8・足首部の色が変わり、いわゆる座りダコができる
正座のデメリットをなくすために、正座をエクササイズと捉えようと著者は言う。
足がしびれるまでやらず、妙な言い方だが運動としての正座。
お風呂やプールでやると浮力で足に負担がかからず疲れがよく取れるらしい。
赤ちゃんの羊水に浸かっている姿は正座に近い。
以前、学習塾を開いていたとき、生徒にはみな正座をさせていた。
膝が痛くなるので、正座椅子を使用した。
正座は苦行と結びつきやすいが、苦行ではないのだから、なるだけ楽にするのがいい。
座禅も本当はまったく苦行ではない。究極の楽行と言ってもよい。
中学時代、竹刀を持った体育教師に廊下で正座させられた記憶がある。
なぜそうなったのかは覚えていないが、何人かの生徒で、私だけに「何だ、その反抗的な目は!」と怒鳴られたのは覚えている。
正座はそういった反省や苦行か、茶道やお通夜などの特別な場所で行うものと現代では見られている。
日常のものとして正座が見直されてもいいのかもしれない。