《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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仏様のオーケストラ (即成院)
2015.09.12
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京都市内の某大学の研究室に出張した帰り。
紅葉で有名な東福寺付近を散策しておりましたら、楊貴妃観音像で知られる泉湧寺のすぐ脇に即成院なるお寺が目に留まる。
何かに惹かれるように立ち寄ってみました。
「平成の大公開 現世極楽浄土と呼ばれる特別な空間で 平安時代以来最も間近で 阿弥陀如来・二十五菩薩さまをご堪能ください。 拝観料 お一人さま500円」の看板。
誇大広告的な呼び込み文句。しかし、入ってみるとその荘厳さに驚かされました。
阿弥陀如来が真ん中に鎮座していて、左右を楽器を手にしている菩薩たちが、音楽を奏でている。「仏様のオーケストラ」と呼ばれ、音楽家がこの仏像たちの前で演奏を奉納しているのは知っていましたが、ここがそうだとは。
流れているBGMは坂本龍一がここで録音したもの。
というすごい仏像群にもかかわらず、参拝客は先に来ていた人一人だけ。
その方もすぐに帰られたのでずっと一人で対峙しておりました。
お寺の方が説明をしてくださり、宇治の平等院の向かいにあったが、明治に即成院に移ってきたとのこと。ずっと遠目でしか見られなかったのが、間近で見られるようになったので、「平成の大公開」に偽りはなし。
二十五菩薩とはいうものの、実は二十六体。阿弥陀如来の左右に対象に置きたかったとの理由で、一体加えられたのでした。
それが前列左端の如意輪観音像。現世利益ということですが、美しい仏像です。
それで左右十三体ずつ、シンメトリーに並んでいるわけです。
帰りにみうらじゅん編『ぐっとくる!仏像』を買い求めましたが、その表紙を飾っているのがこの如意輪観音。みうら氏がもっとも好きなんだとか。
みなが音楽を奏でる中、一人頬杖をついてまるで音の調べに聴き入っているよう。
それより何より、阿弥陀如来の両端を固める脇侍の、右の観世音菩薩と左の勢至菩薩の二体が正座しているではありませんか。
しかも、観世音菩薩はぐっと前のめりで、正座というよりまさに静坐。(写真:先述の『ぐっとくる!仏像』より)
解説によると、これは衆生の魂を受け止めようといつでも立ち上がれる姿で、お尻を少し浮かせている倭(やまと)坐りだそう。
この姿をしている仏像は珍しく、以前日記にも書いた宇治の三室戸寺や大原の三千院にも同様のものがある。
平安時代には正座はなかったので、倭坐りと呼ばれ、静坐と同じように、膝を若干開けて丹田に力が入るよう、前のめりになっている。手の位置も少し下げて組めば静坐そのまま。いやあ、驚きました。静坐童子と呼ばれている法隆寺の像がありますが、それよりそのまんま静坐。この観音像こそ静坐の象徴とすべきではなかったか。静坐関連の資料にも記述されているのを見たことがないので、大発見かも。
左の合掌している勢至菩薩もそれは見事。真ん中の阿弥陀如来は坐禅の結跏趺坐でどっしりし、この三体の坐り姿を見るだけでも十分に価値あることです。一般的にはマニアックな見方とされるでしょうが。
このお寺は那須与一の墓所でもあるので、参拝してみると、受験の合格祈願が目立つ。
「願いが的に」ということ。
東福寺や泉湧寺があまりに有名なので、ここはやや穴場なのかもしれません。
近くには以前書きました森田療法の三聖病院が取り壊され、工事中。次は何ができるのか聞いてみると駐車場だとか。一抹の寂しさあり。
