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《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記

呼吸する魂

2015.12.27

生きるとは呼吸することではない。行動することだ。
Living is not breathing but doing. ルソーの代表作『エミール』の中の言葉で、名言とされているものです。原文はフランス語。

しかし、もしルソーが呼吸というものの重要性を認識していれば、このような言葉は口をつくことはなかったでしょう。キリスト教は仏教などと比較して、動の宗教、行動の宗教と言われることがある。世界を席巻してきたのが動の宗教の国家であることは歴史においても明白です。このルソーの言葉は呼吸というものを緩慢に生きているだけの状態としてとらえ、行動的であることこそが真に生きるという意味なのだと。この言葉は名言としてある以上、人々を鼓舞してきたのでしょう。実際、行動は歴史を変えるのですから。

ただし、変えることがよいことかは別問題です。やみくもに行動することは思慮の浅はかさを示すことにもなる。呼吸の重要性を知るものは、こういう表現をしないでしょう。言うとすれば、 生きるとは行動することではない。呼吸することだ。
Living is not doing but breathing. はじめに行動ありきではなく、はじめに呼吸ありき。外に目を向けるのではなく、自己のありように意識を向ける。

最近、皮膚や肌の本を読んでいます。エステ的な内容のものではなく、脳を鍛えるといった脳トレに代表されるように、脳に人間性のすべてが宿っているような風潮に疑義を唱えるもの。第二の脳として太陽神経叢のある腸が提唱され、第三の脳として皮膚が実は脳のように自己決定しながら働いているのではないかと。結局、ここを脳(人間の中心)と言うことはできないのだと思います。すべてが連関し合っている。私は脳でも腸でも皮膚でもあるが、そのどれかではない。なぜなら、私は私だから。昔からそのことを総称して「魂」と呼んできておりました。魂は非科学的で排除すべきものではなく、科学という分析的な立場では記述できません。古の人々は科学という文明を持っていなかったから迷信的な表現方法しかなかったのではなく、それがもっともと表現として適していたし、だれもがその一語で納得していたはずです。もちろん、死後の世界を浮遊するという迷信的なものも付随していましたが、だからと言って「魂」ほど全体性を表現する言葉はなく、限定された自我である私を超えた言葉としてこれからも意味を持ち続けるでしょう。

皮膚の本は何冊読んでも専門的な話なのでほとんどわからないのですが、音楽も耳だけでなく、皮膚で聴いているといったことは実感でわかります。私はいまだにレコードを愛聴しており、CDとの違いは可聴域の幅ということもさることながら、皮膚に伝わる音波、振動がレコードではCDよりやわらかいということがその理由に挙げられます。CDの金属的な響きを皮膚が拒否するのです。ただし、何人かの人にレコードを聴いてもらいましたが、私ほどに感じる人はいませんでした。ベートーヴェンは耳が聞こえなくなっても、口にくわえたタクトをピアノに当ててその響きを感じ取ったという。皮膚、そして骨で音を聴いていたと言えるでしょう。まさに身体全体で、魂で聴いていた。

これもたまたま読んだ野矢茂樹『哲学な日々』(講談社)に「脳神話への叛旗」というエッセイが載っていました。>知覚しているものに-椅子としての、電車としての、コーヒーとしての-意味を与えるものは、何なのか。それは、椅子に腰かけ、電車に乗り、コーヒーを飲む、身体をもった私たちである。(略)脳がすべてを生み出しているなどというのは、頭でっかちな幻想にすぎない。<以前紹介した文藝春秋の養老孟司も脳科学者でありながら、というかそれゆえに脳社会に警鐘を鳴らしている。脳がすべてではないし、腸がすべてでもなく、また皮膚でもなく、すべてという全体は個に還元されることはありません。

ここで最初の私が変えたルソーの逆名言を見てみましょう。 生きるとは行動することではない。呼吸することだ。
Living is not doing but breathing. 行動は集中するがゆえに感覚がおろそかになりやすい。呼吸に意識があれば、それは皮膚感覚を鋭敏にし、集中ではなく、注意力が高まっていきます。集中は獲物を狙う時で視野を狭くする。注意はそれとは逆で山羊や馬の視野と言ってもいいでしょう。全体を広く見渡す感覚。もし、生きることを学びたいのであれば、拙速に行動するのではなく、呼吸を学ぶこと。注意深さが起こす行動ならば、破壊的になるのを避けてくれるでしょう。写真は馬を見る山羊。

呼吸する魂

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