《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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『有吉桜雲集(自註現代俳句シリーズ八期45)』より
2017.03.13
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一度読んで、再度読み返したときでもよいと思った句を書き留めている。
この方もどなたか存じ上げないが、今まででいちばん多く、見習いたい句が多い。
皮脱ぎて竹一本になりすます
飾られてより叱られどほし祭馬
これ以上小さく咲けぬ冬菫
腰の位置きまり竹馬歩きだす 入
口に魚籠つと置きて涅槃寺
掬ひたる白魚重さとはならず
名も付けてもらひ仔猫を貰ひ来し
蝌蚪あまり見すぎて目玉かゆくなり
千枚の第一枚に田水張る
指先に水音あつめ早苗取り
裏おもてなく蜘蛛の囲の仕上りぬ
目を開けしままに焼かるる捨案山子
出番待つ神々の私語初神楽
暮れはじめやつと本気になりし野火
蛍火のこぼれて水の迅き流れ
飾られてはや神のもの祭馬
白扇をたたみてとどめさす一語
引き際は心得しもの白扇
コスモスの風のなかなか抜け出せず
息白く口とがらせて言ひ負かす
寒林の先見えてゐて抜け出せず
籠とんと叩きて新茶移さるる
おいそれと土に馴染まぬ竹落葉
歯に衣着せぬひと言生身魂
羅を脱ぎて己れをとりもどす
羽ばたいてゐしがたちまち浮寝鳥
叩かれてあらぬ方へと走る野火
あいつこいつと肩を組み卒業生
ここが山ここが海よと掻き氷
表より裏より崩し掻き氷
引鶴をはるかに天守閣の上
杭とんぼ杭いつぽんの奪ひ合ひ
水飲んですぐ火祭へ引き返す
せつかちな母をなだめて入学児
全身にゆさぶりかけて揚雲雀
ひろがりてつぎの滴り待つ水輪
からつぽの頭を高く籠枕
祓はれて鼻すぢ白き祭馬
帰省子にさきがけ天地無用の荷
別人のやうに祭の太鼓打つ
白扇を開く暇なく断られ
茄子の馬寝返り打つて流れ出す
厨の灯消えてふくらむ虫の闇
まとひつく風もろともに竹を伐る
かたちなきまでに乾びて鵙の贄
長滝の継ぎ目つぎ目で凍て強め
霜置きし枕木一番電車待つ
竹馬の三歩四歩五歩これでよし
前髪に触れし桃より袋掛け
太陽へ一点の黒あげひばり
火鉢に手かざしおのずと手の話
福袋やはり重たき方えらぶ
傾きてより息長き兄の独楽
からにして又はじめから茶摘籠
的しぼる暇などなくて水鉄砲
風鈴の音をじつと待つ風を待つ
全長の見えて滝音とどかざり
雪山の見え猟犬の勘戻る
大寒や音たてて折る蟹の足
雪吊の縄一本も遊ばせず