《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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『八染藍子集(自註現代俳句シリーズ六期31)』より
2017.04.12
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大根を煮て家ぢゆうがあたたかし
陽炎を眺めてわれもかげろふか
蕗むいて華麗に生きる指ならず
緑陰の木椅子ゴッホの置きしもの
ひとところことに痩せゆく花氷
貫禄のかくも汚れて鹿の秋
枯るるため日を一身に枯蓮
病よき日々は枯野が遠退きて
指添へてとぎ汁こぼす一葉忌
駘蕩として鹿の眼の長まつげ
春愁やかたづきすぎし家の中
牧神が吹いて牧場のもがり笛
境内のむかるみ神の発ちしあと
藁のしべ噛んでゆるがず飾り臼
飛び石のごとき島々鬼やらひ
野火にもう逃げきれぬ古新聞紙
学校の兎にながき春休
地に落ちてより日おもてに紅椿
蝋燭のほどよき暗さ涅槃図絵
なほ畳む力のありて夕牡丹
結ひ上げし粽惜しげもなく解かれ
秋風に飛びたる紙の裏おもて
いつ染みし墨ともしれず冬畳
すぐそこといはれて一里豊の秋
毬の字のおのづと弾む吉書かな
衣ずれの音をそびらに初鏡
春の夜のごぼごぼこぼす壺の水
有刺線くぐり全きしやぼん玉
帽子より手のはなされず涼み舟
城を出てまた炎帝に従へり
流されて茄子に戻りし茄子の牛
掛軸をはづしてよりの隙間風
水温むひとつひとつの石の相
太陽と一対一の田草取り
くれなゐを凝らして伎芸天の萩
鹿寄せの疾走親も子もあらず
冬木とはいへどしなやかなる枝垂れ
雪解けてふたたび頭なき地蔵
千年の樟のふところ囀れり
日のほかに面を見せず朴の花
海風に押されてくぐる茅の輪かな
竹とんぼ返してくれず天高し
ほつれ毛のひとすぢもなし曼殊沙華
割られぬはなし学校の初氷
膝に日が伸びておのづと日向ぼこ
木犀の香や金となく銀となく
いてふの実落ちて砂紋を傷つけず
菊活けていつまで父の部屋と呼ぶ
墨を継ぐときに息つぎ筆始め
鶴守りの一つ齢とる鶴引きて