《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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『板谷芳浄集(自註現代俳句シリーズ八期23)』より
2017.04.23
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白露の一つ一つの寂光土
香水や嫉妬の眉の美しく
訪へば出で来し子らの皆裸
ほのぼのと春曙の佛達
俄か巫女俄か神主村祭
濃紅葉や湯船に女身透きとおる
大祓かしこみかしこみ終りけり
しんしんと雪しんしんと妻にほふ
梅雨茜生涯病むもいのちかな
書初や古鏡の如き大硯
死ぬまでは死は遠きもの黄楊(つげ)の花
妻よりも旧き主治医と年忘
今日のことはけふのこととし夕端居
生と死といづれが裏や蟲の闇
水底に水の翳あり秋深し
綾取りのはしごのぼればはるがすみ
夕顔や吐くだけの息吸へばよし
少年の手のひら白しさくら貝
散もみぢ踏まねば墓地にまで行けず
鳶一つ舞うて枯野を広うする
白といふ翳の揺れゐる白牡丹
釣られたる岩魚ひらひら日を返す
遠雷に曝書仕舞の僧総出
佛より妻がたよりと盆の僧
種馬の終りて遠き方を見る
風あれば風にすがりて夕牡丹
歎異抄説くとき白扇にぎりしめ
本流をはづれ蛍の径となる
雑然と動きて鴨の陣となる
水音の一日まとふ山櫻
搗くほどにみどり深まる蓬餅
をみなよりをとこなまめし祭笛
北上川の野火も大きく曲り燃ゆ
「ありがたう」の一言の遺書青葉風
大瀧のいろ違へつつ落ちにけり
火祭の終りて人の道となる
倒れぐせ直らぬままの紙ひひな
神官の白から白へ衣更
鴨の陣月があがれば月に向く
きつつきの穴秋風の笛となる