《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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映画「ツレがうつになりまして」
2011.10.09
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「ツレがうつになりまして」をTジョイ京都で鑑賞。
宮崎あおいと堺雅人が夫婦役で共演している。
この二人は大河ドラマの「篤姫」でも夫婦役で息も合っており、今日の俳優陣の中では申し分のない力量である。
レビューには載らないであろうことを先に書いておく。
まずはじめに、マーラーの交響曲第5番の4楽章が流れる。
「ヴェニスに死す」で有名になったあの旋律である。
それがレコードで流れている。
夫の「ツレ」がクラシック好きで、レコードとCDが交互のようにかかる。
レコードが流れているのは映像でもわかるが、CDの音と区別するためであろうか、プチプチ音が多い。
本来は、傷がなく埃をふき取っていれば、それほど音がするものではない。
そこは少し残念なところだが、レコードとCDの聴き比べができる。
この映画の見所というか聴き所をまずそこに置きたい。
縁側のある日本家屋が舞台となる。
やはり、心温まる話は日本家屋がいい。
日本家屋とレコード。と思っていたら、それは自分の家のことだった。
このゆったり時間の流れる家から、ツレは満員電車に揺られて会社に向かう。原作は事実だろうから事実かもしれないが、この設定は少し不自然な気はする。
それはそれとして、映画全体の構成がしっかりしていると感じられるのは、補足のための細かい描写がしっかりなされているからだ。
満員電車の中で、隣の人が『できる人は5分で仕事を終わらせる』というようなタイトルの本を読んでいる。
精神を圧迫するような要素がさりげなく散りばめられ、ツレは会社を辞める。
収入がなくなり、妻はどんな仕事でもいいのでと『自分探しの100の方法』という本のイラストを書く。
その編集者もひどいウツにかかっていた人で、「こういう本も馬鹿にしていたけど、必要な人がいるんだ」と。
この言葉は、ツレがずいぶん回復して、講演を引き受けたときのセリフ(ウロ覚え)「駄目な自分、かっこ悪い自分を受け入れると、本当の自分に近づくと考えています」という補足になっているのだろう。
いろんな道のりがあるんだよと。
自分探しについてはずいぶん述べてきたので、ここでは言及しない。
回復というより成長に主眼を置いているのがポイント。
震災の「復興ではなく創造だ」という現在の潮流にも合っている。
鬱については、本当に落ち込みが激しいと、ツレのように感謝や謝罪の言葉がこれほど多く出るものかどうか。
気も狂わんばかりに他者を拒否し、傷つけるのではなかろうか。
関心の欠如をもたらすのだから、他者への配慮も失われるのではないか。
「がんばらない」とは言っても、「休むのが仕事」や「がんばらないと決めた」という時点でずいぶんがんばっている。
禅の無の境地を「目指す」と同じ心の働き。
飼っているイグアナ(冷血動物)になりたいとツレが言うのを聞いて、宮崎あおいがツレの手を自分の服の下の乳房に当て、「人間だから温かいんだよ」と。おそらくほとんどない胸にも関わらず、体当たりなのがいい。
通り道の骨董屋、新たに飼ったカメの可愛らしさなど、見所が多い。
十分楽しめる映画である。
you tubeにアップされているマーラーの交響曲第5番の4楽章
バルビローリ指揮 ニューフィルハーモニア管弦楽団
http://www.youtube.com/watch?v=aUdmaXpuf8M&feature=player_embedded