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《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記

小説の中の全適堂

2011.10.14

2年ほど前に一度、作家の花村萬月氏にお会いしたことがある。
その折、「今書いている小説に全適堂さんを登場させていますから」と。
「出してもいいですか?」じゃないんだと、事後承認なんだというのが妙に可笑しかった。
販売もしていた移転前の北白川の店だが、店に入って来られたことはないと思う。

そういえば、もう出ているだろうとふと思い出して、読んでみることにした。
『ウエストサイドソウル(西方之魂)』講談社
http://www.amazon.co.jp/%E8%A5%BF%E6%96%B9%E4%B9%8B%E9%AD%82-100%E5%91%A8%E5%B9%B4%E6%9B%B8%E3%81%8D%E4%B8%8B%E3%82%8D%E3%81%97-%E8%8A%B1%E6%9D%91-%E8%90%AC%E6%9C%88/dp/4062164876/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1318523744&sr=8-1
昨年の10月に出ている。けっこう売れているようだ。

主人公の光一(ピカイチ)は高校生だが不登校。
父子家庭で北白川の御影通りに料理屋を構えている。
彼がうちで以前、ロルカの詩集を買い、その詩が全編を貫いている。
全適堂はしょっぱなに登場する。
うちに寄ろうとガラス扉に手をかけたところ、中から同級生の女の子が出てくる。
彼女がピカイチの人生を変えてしまうことになる。
音楽と性の手引をし、打ち込めるものを見つける。

音楽の専門的な話もあり、その辺りは流して読んだが、ブルースを基調としている。
クラシックもピカイチに影響を与えるが、グールドやリヒテルといったアクの強いピアニストだということからもよくわかる。

著者は京都の人ではないのだろう。
京都の高校生の話し方としては違和感を覚える個所がいくつもある。
少なくとも、私が関わってきた子どもたちはいわばこてこての表現は使っていなかった。
不登校ではなく、「登校拒否」という言葉も今日では死語ではなかろうか。
大変読みやすいのだが、そこで急ブレーキがかかったようになる。
関西人でない人にとっては、問題にはならないところであるが。

二人は沖縄へ旅をし、タナガーグムイという滝へ行く。
力を抜いていれば大丈夫と、滝壺でぐるぐる流れに任せて回ってみせる。
気になってうちの『日本滝名鑑4000』で調べたところ、「幾人もの人がこの壺で泳いで命を落とした」とある。
もし行かれる人があれば、無茶しないでいただきたい。
当然といえば当然だが、沖縄にはそそられる滝がほとんどない。

あまり書いてしまうと、ネタばれになるし、うちも最初に出てくるのでこの程度で十分だろう。
ともかく、うちで二人が出会わなければ、二人はもちろん、周りの人たちにも大きな影響を及ぼすことはなかったわけだ。
そういう意味で役割をもてたのは嬉しい。

余談。タイトルの似た五味康祐の音楽評論『西方の音』を、先日読んだばかりだ。
どちらも熱っぽく、両者とも芥川賞作家というのも共通する。
五味さんの「音キチ」っぷりは驚嘆するばかり。
音楽と音質は分けられない。

写真は今日行った南山城村の不動の滝。
赤銅色の岩肌、幾何学状に削られた様が逞しい。

小説の中の全適堂

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