《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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マブソン青眼『一茶とワイン』(角川学芸出版)より
2017.06.16
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著者はフランス人であり、俳句研究者でもあり、俳人でもある。
俳号がだから「青眼」なのだろう。
近年の俳句より江戸の俳諧を好んでいる。
一茶が師事したという夏目成美という俳人をはじめて知った。
当時は一茶より有名で、裕福な成美に対して、一茶は貧しい庶民派という好対照であったと。二句を対比させるとよくわかる。
ふはとぬぐ羽織も月の光りかな 成美
名月のご覧の通り屑家也 一茶
「これがまあつひの栖か雪五尺」の有名な句のもとは「これがまあ死所かよ雪五尺」であったらしく、成美の一言で推敲したようである。青眼は「改悪?」と書いている。
小説と俳句の交じったものを書いているが、リズム的にやはり両者を融合させるのは難しいことを実感する。
その中で気に入った著者の俳句を抜き出してみる。
リフレインがわりと多いか。
一茶の句も韻を踏んだものを評価していた。
朧月故郷なければどこも旅
春は曙パンにコーヒーわれに君
春の月情事の後も春の月
詩作といふ詩の訓練や西日受く
クロッカス言葉以前のかをりかな
星の下月あり月の下に君
山眠るあなたも眠るわが胸に
起こるべきこと起こるなり雪積る
死語はただ白ければよい深雪かな
一神教をうたがふほどよ鰯雲
星空や野菊おのおのをののいて
飛ぶために飛びつづけるや秋の蝶
立葵ひらいてキスの高さまで
思ひ出す思ひ出すほど雪積る