《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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『吉原一暁集(自註現代俳句シリーズ八期8)』より
2017.07.10
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一本の矢が音となる弓始
聞き役となり風送る白団扇
いつまでも向きそのままに馬の秋
サハリンの沖に背を向け昆布干す
白扇を開かぬままの暇乞ひ
大寺の闇をうしろに白牡丹
魚籠のぞくことが挨拶岩魚釣
いんぎんに担ぎてすぐに荒神輿
風鈴を吊りさまざまの風を待つ
みづからを巻きつつ太る藤かづら
水打つて昼夜を区切る日曜日
ねんねこに泣く声深く包みこむ
スコップで叩き魂入る雪だるま
膝に置きおのれ鎮むる秋扇
病めばまた病む友のでき茅舎の忌
恋といふ一字の重さ一葉忌
田を植ゑて水の近江にまぎれなし
まぐはひの唄がとどめの盆踊
木を祀り石を祀りて島の秋
うすものの老母の一語また一語
足もとに潮さしくる管弦祭
白桃を剥く一指だに遊ばせず
天高し近づけば山のびあがり
失ひしもの美しき木の葉髪
筍を抱けばけものの息づかひ
渡る人見る人かづら橋の涼
掃くほどの塵にあらねど初帚
涅槃図の嘆き吊紐切るるほど
光年といふものさしや寒北斗