《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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『藤井圀彦集(自註現代俳句シリーズ九期46)』より
2017.09.16
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雪掻くも雪を捨つるも雪の上
一茎(いっけい)の支ふる一花チューリップ
隙間なく組みて動けず花筏
祓はらて神輿いよいよ動き出す
万緑やぱんぱん払ふチョークの粉
勝鶏の抱かれてまなこ鎮まらず
耕耘機の残せしところ耕せり
悴みて握り拳のまま諭す
金閣寺すこし揺らして水温む
風邪に寝て聞く妻子らの大笑ひ
門一つ残す城内青き踏む
蚊を打ちて己おどろく座禅堂
白髪の兄弟五人心太
イヤリング揺らして男西鶴忌
鉄瓶の鉄の手応へそぞろ寒
着ぶくれの胸に蠢く一語持つ
億年を蔵して厳滴れり
風鈴の音に出ぬほどのさ揺れかな
空蝉のまだのぼりゆく手の構へ
大嚏して当人の大笑ひ
一撥ねの姿に焼かれ下り鮎
瀧に出でし水の驚き思ふべし
バイエルのレッスンつづく菊日和
薔薇園を出て覚えなき指の傷
己がまづ胸の北窓開くべし
(畏友野口芳宏主宰「鍛える国語教室」誌にこの句を贈った。新しい仕事に取り組むときの心構えを暗喩的に表現したつもり)
藷を焼く親子縄文人の顔
にはとりのと見かう見して春の昼
みづうみの水にも及ぶ酷暑かな