《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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『山口速集(自註現代俳句シリーズ六期16)』より
2017.09.26
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鶏頭が土を摑みしまま抜かる
生きものの形そのまま鵙の贄
額白き病者ひとりの日向ぼこ
蜂死せり使へる翅を負ひしまま
スキー担ぐ銃の重さをわれ知らず
かくれ里濃き片陰を一戸づつ
紙漉場開化は裸電球のみ
揚羽蝶われに聞えぬ楽に乗り
水に落ち蛍の行方定まりし
冬の滝はるかなれども海へ対(む)く
一家ちりぢりスケートの刃に乗りて
月光の枯野のわれが邪魔になる
稲車押して見えざる夫を押す
青草を食べ斑(ふ)のしるきホルスタイン
くもりのち雨のあかるさ桐の花
覚えなき眼の妻となる毛皮着て
丹頂鶴争ふときも舞ふかたち
筍を掘って書斎派土まみれ
一字書くよりもたやすく紙魚つぶす
触れ合はず競はず夜の牡丹雪
硯洗ふ焔のごとく墨流し
かりそめに佇つ夢殿の片かげり
遠く来て茅の輪一歩でくぐり抜け