《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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中村与謝男『句集 豊受』(紅書房)より
2018.04.18
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ぷかぷかと金精様の浮く初湯
障子閉めきれば自害の間のごとし
地球から身を乗り出して蛙鳴く
もう別れや(原文ママ)うかとメロン切りはじむ
塚のごと積まれてすべて牡蠣の殻
鷲摑みして立春の米を磨ぐ
ヒトラーの独逸敗れし聖五月
汗冷ゆる鬱とは痛みなき病
句作断つことも風邪の処方かな
乳ぜり泣く声に起こされ初明り
机除け書物除け即雛の間
鉾を組む素肌の上に法被着て
ゆらゆらと歩み初めし子夜の秋
疾く仕舞へ今に夏炬燵となるぞ
お降りの水輪立てつつ音もなし
遠くまでゴッホの筆致青炎天
萍の流れほどなく行き詰まる
稲に謝す元はといへば棄農の身
遺るべき詩歌は遺れ梅もどき
冬菊の残光さへも持ち去らむ
寒卵割つて土星をとりだしぬ
夜気しんと蛍袋を漏れ出しぬ
卯浪立ち立ち一髪の陸もなき
箒木を撫づれば帰心おのづから
若狭
向日葵のひそかに被爆しつつあり
愁思とも幼の水を見つむるを
春寒の幼のお父はんきらひ
観音の稚児めく腕御開帳
茅花野の吹かるる頃の逃避癖
蛇を呑む蛇のしづけさありにけり
国津神滝落とすてふ荒技を
ワキのごとあらはれ布団叩くなり
横転の単車へ雪の殺到す
春鮒の魚籠ふくらみぬ蠢きぬ