《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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『寺山修司の俳句入門』(光文社文庫)より
2018.04.24
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寺山と言えば短歌のほうが有名な気がするが、はじまりは俳句であり、15歳から19歳のころに俳句を詠み続けていた。山口誓子の結社「天狼」や俳誌にも投稿してその才能を認められている。晩年にまた俳句同人誌の発行を計画していたようである。
俳人では石田波郷が好きで、水原秋桜子には関心がなく、短歌に移っても『万葉集』や『古今和歌集』など和歌には興味がないという。
「花売車いづこへ押すも母貧し」を波郷が「菊売車いづこへ押すも母貧し」と「花」を「菊」と添削したことについて、解題で斎藤慎爾は改悪であろうと述べている。「寺山が意図したのは、菊という既成の季語が規制する具体性ではなく、ファンタジー、メルヘンの世界」だからと。
しかしここの花は桜ではないだろうから、つまりこの句は無季と言ってもいい。季語を生かすのが俳句であるとするなら、波郷の添削も間違っていないと私は思う。
いずれにしても、俳壇は30代が引っ張っているような血気盛んな時代だった。
現在、俳人協会誌によると、10年前より会員の平均年齢は2歳上がって76歳だという。
当時の前衛俳句がいいとは思わないが、さまざまな試みが行われていてエネルギッシュであったことは確かだろう。
100句ほどの句が挙げられていたが、「書物の起源」の句ははっとさせられたし、抜きんでて好きな一句である。
紅蟹がかくれ岩間に足あまる
もしジャズが止めば凩ばかりの夜
山鳩啼く祈りわれより母ながき
便所より青空見えて啄木忌
詩も非力たんぽゝの野にまじる石
わが夏帽どこまで転べども故郷
方言かなし菫に語り及ぶとき
読書するまに少年老いて草雲雀
軒燕古書売りし日は海へ行く
書物の起源冬のてのひら閉じひらき