《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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名村早智子『句集 山祇』(角川書店)より
2018.05.04
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椿見に行く哲学の道逸れて
闇に果ありて螢の引き返す
嘶きに嘶き返す祭馬
那智の滝雲をひきずり落としさう
そののちの悲劇は知らず菊人形
枯蟷螂枯蟷螂に縋りつく
全身が一本の脚鶴凍てて
山の神のみを信じて年木樵
竹落葉竹の直幹滑り落つ
花火見る母はこんなに小さき人
台風の洗ひ上げたる一湖かな
七滝の景狼の句碑の景
絹扇一句散らしてありにけり
雨なれば雨に春待つ心かな
蝋梅の蝋の溶け出すほど匂ふ
昼寝覚どこへ帰らうかと思ふ
当たらぬも八卦易者の着膨れて
一遍は疑つて見る初音かな
鳥雲に入る懐に入るやうに
人里に遠く暮れゆく蝌蚪の国
足が出て手が出て蝌蚪に別れの日
端居して聞き捨てならぬことを言ふ
子の数と言うても二人西瓜切る
山霧の末尾は風となり消ゆる
藁ぼつち宇陀の郡も市となりて
芋の葉の露に結ぶと言ふ力
コスモスの初めは雨を拒みしが
『樹勢』の前の主宰の句集。
「リフレインの名村」はここでも健在。
好みとしては『樹勢』より好きです。
難解な言葉を使わない句が結局は心に残る。