《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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辻田克己『句集 焦螟』(ふらんす堂)より
2018.07.29
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杉の中川秋冷の昼灯す
北山の中川。知る人ぞ知る地名だろう。
行きつけの滝がある場所なので杉林のしんとした感じが実感としてよくわかる。
湯豆腐や聞くだに肚の立つ話
悴みし右手が左手を労われる
新聞に切抜の窓春近し
花の候社内報にも俳句欄
空色の空水色の水五月
満開のほたるぶくろの五階建
爺々と蝉にいはるるまでもなし
打水のさなか夕刊すいと来る
この句集の中ではいちばん好きな句。
蜻蛉のように夕刊がすいと来る。薄い夕刊に涼が感じられる。
指揮台の上に指揮棒盆休
おもしろい句。
盆明けの指揮者を指揮棒が待っているよう。
終戦日起きて見下ろすわが枕
鳴く螻蛄のよくよく聞けば命乞ひ
紅葉散ること病む人に些事ならず
寒弾きのラフマニノフに挑みをり
琴や三味線のような和楽器だけでなく、寒弾きをピアノに使えるのだと知る。
ラフマニノフはぴったり。
涙ぽろぽろ鼻風邪の爺でそろ
北窓を開く手力男之命
自句に「北窓を開かむ天手力男」という句があり、あまりの類似に驚いた。
童女また藤を仰ぎに藤の下
寒風を塗つてしまひぬペンキ工
これも自句に「立春の風すべらせて左官鏝」というのがあり、季節は違えど捉え方はよく似ていると思う。