《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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鈴木真砂女『句集 都鳥』(角川書店)より
2018.08.23
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地虫出てすぐ波音を聞きにけり
砂嚙んで果つるほかなし秋の波
壱岐の夏四十歳は海女盛り
冬菊に埋めつくされて死はたしか
飛ぶ力出て来て春の蝿となる
大波を一つくぐりて泳ぎだす
冬の滝音を殺して落ちにけり
帰国してその夜の卓の冷奴
銀座ママ出勤流れ星流れ星
冬の宿波音ばかりきかせけり
目刺焼くくらし可もなく不可もなく
一山の笑へば他山これにつれ
草の花そこにわたしが泣いてゐる
地獄耳持てる女に蚯蚓鳴く
庄内柿捥ぎつくされてよりの景
撞かぬ鐘憮然と下がる年の果て
寒鰤に一句授る魚市場
虎落笛客去りし身の置きどころ
足弱ることも秋意の一つかな
神の留守野良猫またも子を宿し
善人の顔して蓬摘みにけり
死ぬことを忘れてをりし心太
本棚より抜きし一書や居待月
初夢の大波に音なかりけり
春愁を抱くほど花を買ひにけり