《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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角光雄『句集 薫風(現代俳句選書Ⅴ12)』(牧羊社)より
2018.12.19
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平成3年。
第2句集。
「あじろ」主宰、「晨」同人。
平易な表現で、普通の景が生き生きとしてくる。
実に上手いです。
どこからも離れて一樹朝桜
若葉冷底をたたいて出すみくじ
森の香が夜のてのひらにある端居
合掌は暑に耐ふかたち石ぼとけ
(文法的には「耐ふる」だと思いますが)
石仏の拗ねし顔とも藪蚊とぶ
ハンカチを卓とし少女ら旅楽し
わが書架にわが一書あり白桔梗
ふくさ藁日を得しよりの香を放つ
雪握れば雪泣く音に峡暮るる
川おのが光れる景に春を待つ
裾の辺は枯はじまれる磨崖仏
冬耕のひとりに執す夕日かな
一礁へ春濤くだけ散る高さ
段々の青田に風の倣ふかな
鶏頭のちから抜きはじめし色に
聖菓切るナイフ自身のちからにて
風邪の眼に一折鶴が万の鶴
卒業子の肩をたたけば弾みけり
春暁や屋根石ひとつひとつ明け
母の日や母をゆるせぬ時期ありし
靴音のみな働けり十二月
ビール飲む城の高さにさしあげて
指先に瀧触れしより冷及ぶ
盆僧のうしろにくぼむ母が居る
秋冷の粥さじほどのくちびるよ
瞳はだれに似て鏡中に成人す
風邪ごゑのしわしわと子を叱るかな
父をもう糺さぬつもり鳥雲に
今年竹もういつぱしの揺れ見する