《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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桂信子『句集 月光抄』(東京四季出版)より
2019.02.09
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平成4。
昭和24年の処女句集の再版。
昭和13~23年の400句を収録。
暗い句も多く、正直読んでいてしんどいなあというのも多々。
これらが句会に回ってくるのかと思うとちょっとしんどい。
自己のつらさを直接的に詠みすぎているきらいがある。
ただ、夫も子もない身で俳句を一に支えにしてきたことはよくわかる。
大阪の空襲で家が焼け、着の身着のままで逃げたときも句帳だけは持って出たと。
それがこの句集になったので、その俳句に対する執心は太刀打ちできない。
ただただすごいこと。
絵に連なりし冬山窓に鮮しき
梅林を額明るく過ぎゆけり
花の夕ひとりの視野の中に佇つ
夫の咳わが身にひゞき落葉ふる
子なき吾をめぐり萬緑しづかなり
炭つぎつ昼はそのまま夜となんぬ
白梅のかゞよひふかくこゝろ病む
草紅葉ひとのまなざし水に落つ
乏しきに馴れきよらかに年迎ふ
大寒の河みなぎりて光りけり
傘ひくく母の痩せたる夏野かな
曇日の石とむきあふわが秋思
むらさきの帛紗ひろげぬ雪日和
夏草の根元透きつゝ入日かな
手を貸して母を渡すや月の溝
閂をかけて見返る蟲の闇
白菊や一天の光あつめたる
柿に耀る陽はかげりきて海に耀る
熟柿落ち飼猫ひそかなる歩み
梅雨ひと日人間の聲のがれたし
寒風に牛叱るこゑのみ短か
馬駈けて寒月光の道のこる
ゆるやかに着てひとと逢ふ螢の夜
十六夜の黒からぬ髪梳り