《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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『西東三鬼賞』俳句作品集(第26回 2018年度)より
2019.03.03
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はじめての投句でしたが、佳作に入っておりました。
三鬼は有名な数句くらいしか知らず、この賞を俳人の方に教えていただいて出してたというくらいで。
結構人気のある賞のようで五千句以上の応募があったとか。
選に入ったのは
小鳥来る嬰とふ巨大生物に
大賞句は
冷蔵庫流れたと姥わらへりき
すばらしい句。
冷蔵庫の季感はないけれど、洪水のことで夏あたりということは見て取れます。
惨状を笑い飛ばす力強さがある。
作品集には入賞百句ほどが取り上げられており、読んでみると実におもしろい。
三鬼という俳人のイメージが命を削って作句したようなところにあるのでしょうか。
ぎりぎりの命の緊張感というものを感じられる句が多い。
よくわからない句もあり。
好きな句を列挙してみたい。
作者は略させていただきます。
・秀逸
立ち上がるやうに見え来し夜の滝
二十九も年下に恋柘榴の実
・入選
背泳の手の彼岸へと辿りつく
太古より乳房はまろし桃熟るる
戦前を知らぬ政治家敗戦日
肉弾となるラグビーの少女らは
始発待つ一番線の冬帽子
余命告ぐ主治医と僕と遠花火
十月や天気良ければよく働く
風船に糸ある不幸かも知れぬ
ボンネット・バス月光の崖を行く
まつろはぬ民の石文鳥雲に
梟やとんがつてゐて優しい木
生きてきた時間は武器や生身魂
疲弊する語彙を集めて西東忌
山際はすでに明るき夕立かな
似て非なる海鞘と心臓手榴弾
・佳作
影踏みの影踏み抜いて敗戦日
冬天の青がみしみし染みてくる
風鈴に舌 戦争が始まるぞ
青空を語り継ぐこと終戦日
死後のこと少し話してとろろ汁
梅雨青し岩波文庫手放さず
敷居に顎のせて寝る犬凌霄花
山眠る河は流るることをのみ
水筒の水の中まで原爆忌
滝音は生まれる前に聞いた音
師系みな辿れば子規に春の雲
りんご得しアダム・ニュートン・アップル社
青空の古墳講座や鳥渡る
人間は言葉の泉パリー祭
主宰に報告すると、昔にたくさん出したようで、
「三鬼賞はいいとこまで行くと思います。入賞できるのはあなたの俳句がぶれていないからです。三鬼は思いきり自由に、でも本質は大事に作句してください。」とお返事をいただきました。
大賞の句の作者は句歴2年目ということだそうで、発想のゆたかさにかかっているところはあるでしょう。
ただ文法もしっかり使えており、それ以前にも研鑚を積まれていたと思われます。
賞に入ることで喜んでいただけるので、それはそれでいいのですがこの作品集だけでも読む価値がある。
来年がまた楽しみになりました。