《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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大竹きみ江『句集 往くさ帰るさ』(牧羊社)より
2019.05.27
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昭和60。
「雪解」同人。第3句集。
くさめして月にふたたび顔あげず
一塊の野火燃ゆ沼の面にも
花疲れ老の手をひくそのことに
涅槃図の隈なる蝶は吾がつれ来し
種芋を伏せて母の地うたがはず
み仏を辞して日傘の道ふたたび
冷やかに観光は妃の寝所へも
闘牛に血湧かず汗の仏徒われ
初秋風十指ひろげてかよはしむ
御僧に別辞を萩に一瞥を
闇汁のとなりは仏間ゆるされよ
天よりの引く力いま凧のぼる
ギプス出て五体わがもの青き踏む
わくら葉や均らしてあれど爆地跡
新藁や生れて七日の仔牛見に
風邪の子の舌が灼く乳ふくまする
冬鹿のひたよりくるに餌のなき手
眼帯の中に惑ふ眼春の雷
耳さとき疎き老どち新茶くむ
白酒に酔うてただよふ耳二つ
馬柵にそひ馬柵をはなれて秋の風
おもちやまた箱を出たがり掃納め
寄鍋や大口ひらく貝つぎつぎ
牡丹見る日傘にひとみしづめつつ
父の日の父呵々とおく電話あり
補虫網の天を打つとき草いきれ
師亡き世の梅雨の荒音しのび音に
寒卵割つて光を発しけり
切りむすぶ朝の白息死者になし