《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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安田俊子『句集 冬薔薇』(ふらんす堂)より
2019.06.19
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1990年。
「嵯峨野」同人。
軽やかに轆轤まはりて春立ちぬ
開扉して菩薩の御目花に向く
をろがめばわれも善女や御身拭
過疎となる三戸に落花惜しみなく
花筏ついと離れてゆくもあり
掌に落花こころに古き恋ありぬ
花に立ち学徒たりし日思ひをり
ゆれ残るふらここに夕迫りくる
旅鞄土産の新茶匂ひけり
屈葬のごと膝いだき暑に耐ふる
漁り火と競ふ宮津の夜店の灯
退院のことには触れずメロン切る
ばらの香の極まりしとき崩れけり
去来墓小さきをたづね蚊にさされ
万緑の峠越え来て人と逢ふ
夏衣流砂のいろとなりにけり
風鈴を癒ゆるあてなき人と聞く
旅を欲るこころ一途や青葉木菟
海老鮑肴に酌むといふも能登
梅雨寒に震へてゆくや恐山
若きらは村を出つくしきりぎりす
いろ褪せし冬帽にして捨て難し
目を病めど夫あり月の凍てずあり
猿老いて落葉の音に耳澄ます
口笛の少年に舞ふ冬の鳩
無住寺の大樹寒禽鈴なりに
探梅のこころ動きて朝詣
出番待つ女優冬日を一身に