《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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中村与謝男『句集 楽浪』(富士見書房)より
2019.07.14
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平成17。
「幡」星辰集作家。
第一句集。
田水張り青天を田に漲らす
黒葡萄包む「山梨日日」に
義姉にときめきしことあり栗の花
体操の息揃ひたる広島忌
双六の終の二人となつてゐし
豆粒のごとく現れ耕せり
沙羅の花見つめてをれば散り難き
帰省子に立ちはだかれる大江山
朝涼のひらめきごとを走り書き
流燈を水に放ちて残れる手
白桃のやはらかく刃を受け入れし
黒きビニールそれだけの鳥威し
立冬の丹後にガラス質の雨
少年の鋭角の肘泳ぐなり
観桜の連れのだんだん疎ましく
清明の風に揉まるる大漁旗
幼帝のごと抱きあげし冷し瓜
揚花火悪相の巌浮かみけり
一休忌火色激しき松ふぐり
俳諧は無名たふとし冬菫
玉葱の身の張り女神ヘラの胸
関ケ原ただ芋嵐芋嵐
実朝忌投げし汐木を戻す浪
ダリアのみなつかし母校建て替はり
ごつごつの鞄土産の梨ならむ
青年の顔反らせつつ炭をつぐ
雲ひかりだす茶の季を過ぎし宇治
果てもなく眠し車窓をとぶ青田
夏料理檜一枚板の卓
星涼し胴三角のバラライカ
胡桃割る刹那縄文人の貌
ただ寒し妻の持たせし茶のほかは
餅丸め了へし形を子に示す
初虹の全容見んと後退る
昼寝より覚めれば仁王立ちの妻
長靴の気さくな男林檎園
壁炉燃ゆ三井栄えし頃の荘
線路にもホームにも霜生きぬかねば
雪霏々と天の剥落かぎりなし
日脚伸ぶ句に窮すれば妻を詠み
蛤や妻は丸顔その母も
こでまりの細かに揺らぎ神経科
横書きにダーソヤツミと古団扇