《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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岡崎鶴子『句集 月日貝』(真生印刷)より
2019.12.20
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平成13。
「霜林」「風雪」同人。第3句集。
夫帰るまでを灯さず月の椅子
啓蟄や期日重なる誘ひ文
わが窓に空もどりくる柿落葉
百済野に孤影の長き秋思仏
土間開けて梅の風来る藍の華
常濡れの土間冴返る藍濯ぎ
紅梅の雨を小窓に藍ねむる
あの窓の灯も点滴か春の闇
慈顔やや異に小春の九体仏
ポツダムにいまも円卓窓若葉
月出でて樹氷は邑のシャンデリア
白樺の黄葉を湖にフィンランド
放射路の地図廻し見にパリの秋
子を泊めて夜半の月光分かちあふ
蛙鳴くのみの白川郷泊り
居酒屋にチェロ奏でゐて夜の長き
師の逝くに止めるすべなし散り紅葉
名残雪電動ベッドやゝ起し
思ひ出せぬ名が閃きぬ嚏して
山眠る一社六戸をふところに
朝蝉やホースの虹を意のままに
朝刊を読まず捨てずに日の短か
ハンカチの真四角に朝始まりぬ
涼しさや地下にモネの絵守られて
八月や葉月と決まる赤子の名
淋しさと自由を三寒四温とも
雪折の谺を返す峯の寺
月日貝世の明暗をひとつ身に