《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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『皆吉爽雨集(自註現代俳句シリーズ1期3)』(俳人協会)より
2020.01.08
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昭和51。
ホトトギス同人。「雪解」主宰。
幹に手をかけゐて花のちりやまず
春愁のいとまなければ無きごとし
啄木鳥のこぼせるものの落ちもこず
頬燃えて自画像出来ぬ卒業す
をちこちのをちの良夜の森に靄
葉をたたむしぐさも桜餅の宵
落葉ふむ音はうしろへ残るもの
冬耕の田のま中より打ちはじむ
遠ざかるものに病みし日秋扇
夜学師の一たかぶりのチョーク折れ
寒の水飲みてつらぬくもののあり
汗引いて山河やうやく故里ぞ
あがるよと落つるよとのみ初雲雀
はるかなる光りも畑をうつ鍬か
冬至より夜の鳥籠に布(きれ)二重
うすものの機上夫人に雲ぞ敷く
牛小屋に牛の新角山笑ふ
汗のもの奪ふごとくに濯がんと
千針生ふ楤も寒林なせりけり
冬帽や画廊のほかは銀座見ず
天心に会ふ二ながれ鰯雲
色鳥の真顔横顔つくし去る
端に日ののりて大冊読はじめ
一坂に沿うて一里木曽の秋
ねはん図の嘆きのかぎりなくて辞す
落鮎の山川昨日(きぞ)のにごりなし
ただ中と思ふ落花に立ちゆらぎ
空の鶴われら仰ぐと声こたふ
十一の遠のく十も一の音も
紫陽花や墨も匂はず弔句書く