《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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野田節子『句集 糸車』(霜林発行所)より
2020.07.25
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昭和55。
「霜林」同人。第1句集。
舟小屋に舟無き浦曲暮遅し
湖見えて旅のはじまる花菜風
春ふかし初めて貰ふ子の名刺
湖魚売の呼ばれて返す東風の橋
春寒し拭へどくもる銀の匙
ゆく春の椅子ふかく見るミレーの絵
波見つつ春愁わかつ姉妹旅
岐れ径までの語らひ夏つばめ
碁石くづす音やメロンの冷えごろに
山頂や摑みてかたき夏の雪
山葵咲く水冷たくて村の口
夕顔のひとつ開きて母送る
向ひ家に声のとどきて島涼し
夕焼の残る室町稽古笛
詩にならぬ文字連ねをり羽蟻の夜
遠ざかる烏賊火を窓に書くたより
人形の眉ひく小筆さわやかに
話いつか旅の子のこと夜の長き
豪商の名残りつゆけき小判壺
糶あとの仔牛長鳴く尾花風
鰯干し海を表の伊根ぐらし
友待ちて光る三日の洋酒瓶
雲の間の冬日捉へて鷹翔てり
塔仰ぐ胸に冬日のとどまらず
灯を消してよりの寒さや夫の留守
道場にいまも声とぶ霜の坂
冬薔薇を剪りつつ人を信じをり
駅出でて独りは寒し低唱す
詩知りてよりの歳月梅かたし