《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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橋本多佳子『句集 命終』(角川書店)より
2020.09.02
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昭和40年。
第5句集であり遺句集。
老いの顎うなづきうなづき紙を漉く
紙漉のぬれ胸乳張る刻が来て
露晒し日晒しの石桔梗咲く
「脚下照顧」かなぶんぶんが裏がへり
落日に群衆が透く川施餓鬼
蒟蒻掘る尻がのぞきて吉野谷
柿盗りを全樹の柿がうちかこみ
柘榴の裂けすでに継げざるまで深く
冬瀧の天ぽつかりと青を見す
爐より立ちひとりの刻をさつと捨つ
湖北に寝てなほ北空の鴨のこゑ
うつむくは堪へる姿ぞ髪洗ふ
鉄格子天神祭押しよせる
しやぼん玉吹いてみづからふりかぶる
凧・独楽・羽子寄りあふわれと遊ばずば
筍と老婆その影むらさきに
田を植ゑてあがるや泳ぎ着きし如
妻の紅眼にする田植づかれのとき
男女入れ依然暗黒木下闇
七月の光が重し蝶の翅
かの老婆まためぐりくるをどりくる
をどり太鼓びんびん沼がはね反す
吾去れば夏草の領白毫寺
翅立てて蝶秋風をやり過す
掌に立ちて独楽の鉄芯吾をくすぐる
羽のみだれ正す破魔矢に息かけて
鋸の歯に鹿角最後まで硬し
少年の冒険獲もの一氷片
氷塊の深部の傷が日を反す
天知らぬ凧を揚げむと野に抱き来
風に乗る揚羽の蝶の静止して