《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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名村早智子『句集 参観日』(本阿弥書店)より
2020.09.06
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1998年。
「築港」同人。現「玉梓」主宰。第1句集。
こういうふうに句集になると、詠まれた子どもは決してグレることはないだろう。
大学と城のある街夕焼けて
日本を詠んだとは思うものの、ドイツのハイデルベルクを思い出す。
ハイデルベルク大学とハイデルベルク城がある街。街を見下ろしながらバナナを食べていたのが思い出される。
俳句は、詠み手と読み手が、それぞれの体験からまったく違う風景を思い浮かべることがあるというのが面白いところでもある。
でで虫に触れたし吾子の思案の手
風邪に臥す床より子等を叱りをり
屋根の無き原爆ドーム花の雨
日毎摘みげんげ田の密変はらざる
蝙蝠が飛びまはる夜の裁判所
落葉径見えざる石に躓ける
宍道湖の蜆わが家で砂吐けり
落花浴び体育授業参観す
げんげ摘む子の胸中を吾知らず
祭笛横顔ばかり見せて吹く
行終へし滝見て憩ふ滝行者
何食べてゐても追はるる稲雀
エプロンに紙と鉛筆久女の忌
それぞれの思ひに咲ける思ひ草
受験子の部屋椅子軋む音のみす
直角に軌道を変へる鉾の月
大学と城のある街夕焼けて
月照らす京都に金と銀の寺
淑気満つ使ひ慣れたる厨にも
合格をして優しさを取り戻す
草刈りて湖の青さをひきたたす
いつも手の届くところに夏帽子
老漁夫の日焼一枚脱げるほど
訪ね来し寂庵は留守実むらさき
夕焼に攫はれさうな烏瓜
紅葉山この世の色を皆使ひ