《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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佐久間慧子『文字盤』(角川書店)より
2020.09.25
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平成8。
「かつらぎ」同人。第3句集。
鷹高しさらに上なる点も鷹
クリスタルグラスの虜水中花
灯を洩らす郵便局も雪囲
白々と仔馬のための柵を塗る
日除艇愛生園へ向けて発つ
聖五月一賄婦たらんとす
はんざきの棲む夜の湖の匂ひけり
囮鮎いざ鎌倉と放ちけり
しののめの星が一番鶴を待つ
刃こぼれと見えつつ雪解雫かな
禅師とも見えずひたすら雪を掻く
梅の丘天与の椅子と坐りけり
鼎談となる椅子を置く芝涼し
手首にもまきつけ昆布引きにけり
野点あり甕に秋水溢れしめ
わが言葉わかるインコと冬ごもり
芝広くジューンブライド立たしむる
白息や檻に生きとし生けるもの
われとわが存問したる日記果つ
賽ころは天より降らせ絵双六
翅立てて凍蝶祈りゐるごとし
ひざまづく床板固し受難節
聖壇は書架の一隅夜の秋
看取女に夕かなかなとなりにけり
夜を見据ゑ分水嶺の大冬木
闘鶏の小屋とて錠の固きかな
首一つ水にのせもし鮎を釣る
釣り呆けてゐて一夏を痩せゐたる
畔木凍て二十六聖人めきぬ
モーツアルト聴いてゐさうよ室の花
大琵琶は広しと雪を捨てにくる
十棹ほど漕いでは止まる蜆舟
相方へ槌を投げもす垣修理
しやぼん玉空也上人めきて吹く
鮎宿にかくも揃ひぬ詩酒の客
甲骨文字いくつおぼえて夜の長き
冷えまさる主のおみ足に触れ申す
波止寒く鷗は胸をならべたる
王侯の絵屏風を立て一商家
文字盤のごとふくろふの貌はあり