《古書・古本の出張買取》 京都・全適堂 | 日記 | 『季語別 茨木和生句集』(ふらんす堂)より

◎近畿一円、出張いたします。 一般書から学術書・専門書、現代から江戸(和本)まで。

Top >  日記 > 『季語別 茨木和生句集』(ふらんす堂)より

《古書・古本の出張買取》 京都・全適堂 の日記

『季語別 茨木和生句集』(ふらんす堂)より

2020.11.16



2003年。

幹太き松を抜け来て春の海

雪卸せざりし蔵の雪雫

その上に水の乗り来し薄氷

睦事はこのごろとんと桜餅

春障子鯉が跳ねしと開けにけり

自句自解させられてをる春炬燵

麦踏の手をどうするか見てゐたる

意を曲げぬらし耕牛の水を飲む

田の神を呼ぶかりそめに田を打てり

籾浸すさま一学級見学す

水音は耳に障らず春眠す

歩けば軋む木造校舎新任す

万愚節岩がするりと波脱いで

いかに嘆く涅槃に貝の来てをれば

恋などはまつぴらと猫太りけり

田蛙の声散らかつてゐたりけり

うぐひすの声もここらで聞けばこそ

雉鳴くと聞き逃さずに卒寿翁

河口より燕大阪市に入る

囀れり立ちたるままに朽ちし樹も

非想非非想の天よと囀れり

鷹の子が鳴くよ話さず歩かうよ

掛軸の旭日に虻の当り飛ぶ

本尊は粗末な如来山桜

傷舐めて母は全能桃の花

松の花いつも怠惰な午後の海

杉花粉日和宇陀郡吉野郡

如月菜霜の傷みもなかりけり

折箱を除ければ土筆出てゐたり

子に蕨摘ますそれそこそこやろが

草舐めて牛も五月を喜べり

梅雨寒や犬も怖がる犬が来て

朝涼の筆を走らせずに運ぶ

百年杉二百年杉出羽涼し

地に影を映すことなき雲の峰

扉を閉めし音も雷かと驚ける

出羽の国鴉好みに夕焼けて

炎天の海が仕事場ひとり釣る

拝みたる位置退きて瀧仰ぐ

拝殿も厠も瀧の音籠る

瀧壷の波瀧水を押し出せり

日傘さし海美しとひとことを

掛けられし布巾がとんで柏餅

誰もつぎくれざるビールひとり注ぐ

田を植ゑてがら空きの空北国は

断崖に差し出して刈る草刈機

早起きのキャンプ戦前派の教師

蛍狩乳張り来しと小声にて

汗を拭く泳げる烏賊を見てゐても

峰行者雲の峰への第一歩

降りて来し道を拝める峰行者

茅の輪への道に曲りし盲導犬

蹴り脚の伸びすこやかな鹿の仔かな

きりころと鳴けばころきり雨蛙

生真面目とちがふまじめさ蟇

目の並ぶまでに扁平蛇轢かる

ほととぎす一樹一樹の夜明け来し

寺に来し甲斐ありとせば時鳥

ガスボンベ杉に結はへし鮎の宿

金腕輪金ペンダント鮎を焼く

岩と岩見分かぬまでに鮎錆びし

蛸突の少年岩を跳びて来る

水母よりビニール袋浮き上手

木の洞に入りて出て来ず道をしへ

蝉鳴けり人も車も気にせずに

夜光虫見る人星を仰ぐ人

潮鳴の学校に白さるすべり

栗の花山の日暮は素直にて

まぐはひしあとは蛇の香ぞ朴の花

善峰へ行く道苺狩も行く

雨雲が近し伸びたる筍に

出遅れし筍に人目もくれず

意のままに出て来て伸びて筍は

筍のくろぐろ生り余りて出たる

鶏鳴はただごとならず草いきれ

捨てられてゐたるは仏具草いきれ

草いきれ少しの水に蟹がゐて

指深く切りたる記憶青芒

びつしりと萍詰る田のうろこ

傘開きたるは一本早松茸

猿梨の花はと問はれたればさて

秋の瀧水崩れずに落ちにけり

肌寒や肉紅くせる肉屋の燈

山を出し月が均せる土照らす

狼を詠みたる人と月仰ぐ

水澄めり素直に岩を通り越し

二つ目を聞けばたしかにばつたんこ

藁塚の大き乳房に鴉来る

一穂の稲を載せたる盆供物

電燈をこまめに消せり生身魂

割箸の脚背に出たる茄子の馬

色鳥や座椅子斜めに僧を待つ

分校は大きな巣箱小鳥来る

縄張りの田を刈られ飛ぶ稲雀

鳥肌を立て椿像を嫌ひをり

コスモスや妻に文学少女趣味

泥芋やかるがる主宰誌を持つな

稲の花どかと一雨欲しけれど

写経会のひとりふたりと萩の道

萩の枝持ち上げさせて僧掃けり

泡立草茂る伊賀にも甲賀にも

仮厠にて付けて来し草虱

山も田も陽気ぐらしや曼殊沙華

毒とはねられし菌の堆し

松茸をこれほど採つて不作とは

こぼれたる水がまんまる冬机

数へ日の山のまぶしき日差かな

大寒の樹々本腰を入れて立つ

教師とて身体が資本立ち冷えて

まつくらな空が音してしぐれせり

石切場雪がよく降りよく積る

雪庇とけたる雪が氷柱なす

村十戸雪被て厚くつながれり

戸口まで雪廃業の映画館

硝子戸に密着卸したる雪が

雪ばかりにて鶺鴒も雪叩く

美しき雪嶺を指す人さし指

山々に囲まれて山眠りをり

太陽に枯瀧の胸あたたまる

青空の流れてゐたる氷柱かな

来たる甲斐ありし氷柱も雪量も

壺底に水至らざる冬の瀧

山国の媼ひとりも着ぶくれず

頬被付け火の噂してゆけり

業平の墓樏を締め直す

脱糞の快熊食うて猪食うて

猪食ひに名誉主宰を連れ出せり

屋根の雪掻きて地上に雪増やす

炭小屋に行く道除雪してあらず

玄関の白障子まで石畳

暖房音してゐることも気が散れり

狩猟期に入りたり寺の裏山も

飯食ひし箸折り捨てて猪猟師

杖ついて来て猪撃ちを指図せり

ワゴン車を傾ぎ止めせり猪猟師

崖草を刈らず仕掛けし猪陥し

宮内庁職員として鷹狩す

鰤漁師沖はひつくりかへれると

犬とゐて炭焼夫子も妻もなし

後継ぎのこと考へず炭を焼く

日刊紙郵便で来る紙漉村

対岸の打つ寒柝に打ち返す

寒柝が寒柝に会ひ引き返す

禅寺に大き頭の雪達磨

スキー習ふこの厄介なものを履き

千枚田誰の持田も冬休み

背負籠の老婆狐のあと通る

杖を持つ父をおそれて寒鴉

にこやかにぼけの来し父返り花

落葉籠底の腐つてをりしかな

運動場にもプールにも朴落葉

弔に行く人日の山の道

懸想文売の足音なかりけり

琴を弾き終へたるひとり米こぼす



日記一覧へ戻る

【PR】  TMコーチングテニススクール  アルファ カット  鳥まる 聖天通店  プライベートヘアサロンTUG  YAH-MAN FREEDOM CAFE AND BAR