《古書・古本の出張買取》 京都・全適堂 の日記
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豊田貴子『句集 紫野』(文學の森)より
2020.11.23
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平成25。
「鳰の子」同人。第1句集。
名月の昇るに間ある湯あみかな
新聞の投げ込まれしを聞き朝寝
水打ちし一瞬土のほめきたる
毛糸編む母との話つきもせず
病室の暗きに光り寒卵
菫踏むミニスカートの脚すらり
風薫る白一色の喫茶店
母の歩に合はせ炎暑の道遠し
日の温み掌に直送のトマト切る
用済みの案山子束ねる夕日の田
親燕子燕長屋王旧址
近づけぬ瀑布を共に見て他人
そのビルのみ激震に耐へ寒の月
滴りの光る一瞬待ちて撮る
患者の輪白衣も混じる日向ぼこ
群羊の動かぬ青野一望す
耕人のたちまち点となる車窓
敗戦日奥歯にきしむ炒り大豆
手術後の目に切る大根白きかな
生かされて生きて八十路や梅の花
暑に耐ふる積ん読の山読み崩し
佇みし千人塚に風死せり
余生なほ少し頼られ桃の花
母の夢見ぬこと久し豆御飯
師の見えて句座整ひぬ夏座敷
亡き父を真似て小椅子で草むしり
新走り禁酒解かれず逝きし父
ある日噴くやうに花壇の菫かな
忌を修すひとり色なき風の中
常づねのことなすだけの年用意