《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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池田理代子『歌集 寂しき骨』(集英社)より
2021.01.19
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2020年。
「塔」会員。第1歌集。
・父と戦争
行く先も知らぬ船底に命なきものと俘虜らは覚悟決めしか
「母さんを頼む」と洒落たことを言う「おう、任せとけ」と私も応じる
・母
何もかも母の敷きたるレールなりき 漫画もピアノも歌も大学も
あれほどに子を慈しみ子を抱きし 母が見知らぬ人となるとき
・短歌を詠む
子を容れる器ともならず恋をして のっぺらぼうに老いてゆく我
自死ならば晩秋の京都と決めていた 恥多かりし愛(かな)しき思春期
・旧西ドイツにて
良き市民良き父親であったとう ヘスの自伝のいまも書架にあり
級友の広げし地図に日本はあらざりしかも 最果ての祖国よ
・カンボジアにて
うずたかく積まれてありし人骨の 声なき声のいまもくぐもる
・老いと向き合って
「老いて死ぬ」ことは、「生きる」ことと同義である。
人間以外のあらゆる動物や植物が、何と従容としてこの「老いて死ぬ」必然に身を委ねていることか。どうすればそのような境地に至ることが出来るのか、自然の中に身を置くほどに、人間以外の動物から学びたいと真剣に思う。
いかように繕いてみてもただ老いは 醜きものよ我でなくなる
息ひとつ吸いてこの世に生まれ来る ものみな息を吐きて逝くなり
・初恋の頃
手も触れず唇にさえ触れぬ初恋の 痛みの今も胸に残れり
・猫を看取る
真夜中の動物病院のガラス扉(ど)を叩き呼ばわる 人目はばからず
・最後の恋
わが君と心に決めしかの夜の 夢ともまごう淡きくちづけ
わたくしの生を負わむと若さゆえ 無知ゆえ君は阿保なこと言う
この人を忘れてしまう日が来るのか いつか私でなくなる時が