《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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内山花葉『句集 沸点』(ふらんす堂)より
2021.01.29
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2018年。
「沖」同人。第1句集。
木々わつと叫びて芽吹く爆心地
桜九十五度目の母と小さき旅
鬼灯やいま逢はねばと汽車に乗る
行く雲のはやさに稲を刈り進む
霧籠めて滝のとどろき失せにけり
新雪の一歩一歩に浮力生る
濁流のゑぐる力よ雪解光
初蝶に山野浮き立つひかりかな
春灯さらりと重きことを言ふ
花冷の息整ふる一の弓
大地いま飛花受け止むる掌
蝿たたき摑む速報震度六
下敷のうらの九九表小鳥来る
電子辞書See・Youと消え冴返る
跳べさうな一級河川摘草す
そばに居るだけの母の日母百歳
ぽんと抜くラムネしゆわつと鬱抜けて
泣くことが言葉よ烏瓜まつ赤
銃音の近すぎまいか冬菜畑
剥製の目のてらてらと榾燃ゆる
麦踏の足とどむるは祈るらん
野に置けば昔のラジオ巣箱めく
白さるすべり百歳の死は水のごと
村中が老いて達者や柿の照り
鍵盤の一つが鳴らず山眠る
銀河濃しむかしテレビに砂嵐
梨を剥く刃先は夫へ向きたがり
灼け土を抱く敗退の球児らは
一生懸命読んで忘れて夏の果
寒波来るゾーリンゲンの刃のやうに
雪をんな悪女ぶつても猫舌で
色即是たしかに空と亀鳴けり
一頭といふ貫禄のあげは蝶
キャッチャーミットの凹みまつ黒夏の果
種を採る吾も一粒の種ならむ
長き夜の本閉づ純愛に疲れ
白き白きムンクの叫び樹氷林
野球帽にもらひし子犬クリスマス