《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
-
大牧広『句集 冬の駅』(本阿弥書店)より
2021.02.05
-
2009年。
「港」主宰。第6句集。
としよりをまだやつてゐる人に雪
裸木の裸の終り近づきし
さうめんをすする遠くに空母置き
エレベーターに人が棒立ち冬の底
さくら暮れ溝口健二的世界
祭笛巧みすぎたる憾みあり
盆三日中有信じてゐればよき
百叩きほどの残暑を賜はりし
反骨が偏屈となる虫の夜
生身魂ときどき明治の矜持見す
覚えてはをらぬか戦闘帽の案山子
大根の切らるる前に撫でられし
辛抱も成分として皹ぐすり
落ちてゐし受験絵馬なり掛けてやる
日盛りにくらくらと立つ大病院
わかものは眉を捨てゐて西鶴忌
しばらくは四隅を撫でて新日記
戦前の目刺の味にまだ会へず
結婚記念日いつもながらの木の芽冷え
落人の里の苗木と聞けば買ふ
折檻のやうに浅蜊の水に塩
路地深ければ洗鯉高価なり
昭和ほど紫煙あがらずビアホール
母が父を語りしときの遠花火
重陽や返事出すべき本の山
雑炊の浄土へ卵落しけり
凍蝶となるまで生きることの意味
鳥交り人減りゆきを村といふ
春の汗安全地帯にて拭ふ
里芋の煮ころがしこそ一哲理