《古書・古本の出張買取》 奈良・全適堂 の日記
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『現代俳句の世界13 永田耕衣~』(朝日文庫)より
2021.04.12
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昭和60年。
日のさして今おろかなる寝釈迦かな
踊り子にトマトのこれる畑かな
死近しとげらげら梅に笑ひけり
春の鶴真白き糞を落しけり
秋の野に立つて秋野を見ざるなり
みの蟲をかたちづくりぬ夕風は
机上より寒鮒釣の見えにけり
人ごみに蝶の生るる彼岸かな
父の忌にあやめの橋をわたりけり
人間のことのはにとぶ蝶々かな
降る雪に老母の衾うごきけり
まつくらに暮れてしづかや寒雀
夢の世に葱を作りて寂しさよ
朝顔や百たび訪はば母死なむ
或る高さ以下を自由に黒揚羽
冬を越し難き老母に日は照るも
柿を好き給ふ母ゆゑ慰め得
母死ねば今着給へる冬着欲し
百合剪るや飛ぶ矢の如く静止して
目白死す目白の聲に覆はれて
移動せむと緑蔭はまたうごめきぬ
死螢に照らしをかける螢かな
落ち百合を轢くとき花車高し
老梅を照らす老体一つ在り
餅生れて翁かたむきいたるかな
手を容れて冷たくしたり春の空