《古書・古本の出張買取》 奈良・全適堂 の日記
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山口昭男『句集 木簡』(青磁社)より
2021.05.16
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2018年。
「秋草」主宰。第3句集。
金鍔の四つ角かたき薄暑かな
汗の人隣の汗を見てをりぬ
秋すだれ巻き直したる太さかな
独白のやうに蓮の破れをり
なにもかも古き簾の内のこと
待つてゐる女が芒持つてゐる
さからはぬ子規の妹烏瓜
立春の大きな欠伸ほどうれし
さみだれをゆつくりぬけてゆくからだ
まるめてはすこしふくらむ紺水着
ふりむいて蟷螂の貌かたむいて
月を待つみんな同じ顔をして
涸るる水少し乱れてより流る
氷柱より光のぬけていくところ
盆梅のその奥にある金庫かな
木の中の水音はやき弥生かな
いつまでも何にもしない雨蛙
籾の名は五百万石蒔きにけり
沖に船寺に虞美人草の花
見えてゐる水鉄砲の中の水
竹の根のみどりうきたる良夜かな
教室の地図の光沢草の花
片栗の敵意もちたるごとく咲く
波音の虞美人草でありにけり
いたづらに蟻ふやしゆく屍かな
手を置けば水つめたかり朝の秋
枯蘆の風の揺れとは違ふゆれ
奇妙な灯蟲滑稽な灯蟲かな
蟋蟀のつまらなさうな口元よ