《古書・古本の出張買取》 奈良・全適堂 の日記
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江中真弓『句集 武蔵野』(角川書店)より
2021.06.22
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平成24。
「百草俳句会」主宰。第3句集。
凍滝となりきれぬ水弾けけり
散策のいつか本気に蕨とり
郭公に鳴かれ師の句碑去りがたし
今日はじまる渦ほどけゆく薔薇を褒め
ぎつしりと戦没者名蝉しぐれ
刈田道亡骸ゆくに明るすぎ
空に目が生れ鯵刺急降下
目を上げることなき驢馬よ夕焼けて
蓮の葉の露蓮の葉にこぼれけり
青空のもの盗るやうに柿を捥ぐ
遠富士がいちにち窓にお元日
流れゆくものにも影や冬の川
人垣に押し出して来て荒神輿
麦秋の雲脚迅き関ケ原
脱ぎきれぬ皮ぶらさげて今年竹
丸き胸見せて小鳥のすぐ隠る
冬の雷伐折羅大将我にうごく
子が石を抛りぴかぴか春の水
視線集む木曾の子馬として生れ
万緑の遠きところで「もういいかい」
こころ澄むまで歩き来て龍の玉
平和祈念像真正面の木の芽かな
かすかなる山の鼓動や清水湧く
滴りや離れば現るる磨崖仏
四万六千日暮れて店出す占師
かつて鉱毒いま夏鴨の流れゐる
草青む観音さまは前傾に
立雛女雛は胸をつつましく
ふくろうのふくらんでまた眠くなる