《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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田村幸江『句集 船遊び』(本阿弥書店)より
2022.01.29
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1992年。
「草苑」「航標」同人。第1句集。
頬の傷皺となりたる終戦日
露座仏にほど近くゐて桜餅
鰤の頭をたたき切つたる光かな
風呂吹きの舌にくづれる旅疲
三日はやうねりに向ける舳かな
春立ちぬ仁王の足の裂け目にも
祝ぎごとの夜に入りたる白牡丹
帆柱に雲の行き来やサングラス
シャッターを塗りかへてゐるパリー祭
一山に一路見えをり秋あかね
産声やホースの先に薄氷
あたたかや船窓に置く哺乳瓶
六甲の水を飲みをり女郎花
流灯に流るる空のありにけり
目薬の一滴のこる冬銀河
平成のあけぼのおよぶ白障子
西国の仏見し夜の野水仙
風の日の風を見てをり袋掛
風冴ゆる一途に老いし刀鍛冶
吟醸酒六腑冷たく通りけり
凍蝶の拡げし翅の微光せり
池の面に氷一塊浮く真昼
寒明けの山来し僧に草の粥
啓蟄のかたき畳に座りけり
酌み交はす地酒に鮎の焼けて来し
序の舞やかがり火に泛く足袋の先
まつすぐな幹まつすぐにかたつむり
四五匹は柄杓のがれし白魚かな