《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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矢成緑風『句集 月下香』(本阿弥書店)より
2022.02.05
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1993年。
「万蕾」同人。第1句集。
朝より灼けて坑夫の墓百基
秋天を突く噴水の力づき
雪蹴つて負けの嘆きを隠さざる
肩に手を置かれてゐたり虫時雨
去年今年なく作業衣をつけにけり
秋晴や電柱の影壁に折れ
群羊に重なり春の雲まろし
芥子朱し小手かざさねば沖見えず
芥子吹かれあるなしの影ちらつけり
ビールの罐ぺかぺか潰し論議中
足音の落葉を踏みて遠ざかり
竹林に真直ぐな雨秋初め
蜥蜴出づ六千尺の巌の上
着ぶくれて鏡にとらへられにけり
菜の花に大安の日の沈みけり
悲報また身内に春の定まらず
老いしとは思ひたくなし耕せり
礼拝堂高し夏木のなほ高し
激す音流るる音や渓涼し
六月の氷河の放つ蒼き光ゲ
短日や荒塗り荒く塗りて去り
豆撒きの日と思ひつつパンを裂き
窓により長き秋思の車椅子
葉桜の影の来てゐる朝餉かな
月下香花弁一片づつの張り