《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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白鳥竣『句集 陽炎』(卯新山文庫)より
2022.02.13
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昭和52。
「寒雷」「陸」同人。第1句集。
子の頭撫づ雛の髪よりやはらかし
乳房躍らせ盥に春の水を張る
風しづむたび雛罌粟は蝶を飛ばす
ラムネ飲む壜の底より白鳥座
いぶかしみ金魚近寄る無精髭
天の川ひとは音たて尿りなす
こほろぎや足でさぐれど下駄揃はず
降誕祭頭上を走る暗き梁
三伏の鉄鍛つ貌やわめくに似て
転げ出てピーマンそれぞれ肩怒らす
青簾主婦を忘れし妻匂ふ
肉となり鯉の冷たさ重さ掌に
一大鉄塊地鳴りして来てラッセル車
身にとほき手足がありぬ昼寝覚め
四月馬鹿犬のくさめの土埃
二歩三歩より駆け出して夜の火事
こくめいに画けば描くほど蟇の貌
遥かを見る瞳の耕牛は鞭打たれ
ぜんまいに影生れ来ぬ身籠るや
考へて髭の影産むかまど馬
わが二歩は妻の散歩の春しぐれ
早苗饗の白き光点にぎり飯
そこからは喰へぬ青空いも虫よ
妻の日記乾ぶ紅葉を吐き出しぬ
凍て雲や樫のとびらの独逸文字
玉虫を月明の野に還しやる
捨て工帽いまなほ汗の鹹(しほ)を吹く