《古書・古本の出張買取》 奈良・全適堂 の日記
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安立公彦『句集 早春』(本阿弥書店)より
2022.03.24
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2017年。
「春燈」主宰。第1句集。
ゆく春の何に涙や子の寝顔
蝸牛や勤めある身は影を曳き
竹春の雲は高きをわたりけり
山笑ふことに雑木の明るさに
海やまに海やまのこゑ終戦忌
八月や覚めて畳のひややかに
触れあふは囁くに似て冬木の芽
泰山木男の白さもて咲けり
ひとすぢの月光となり滝落つる
牛の眼も雲も八月力充ち
初日記日のあるうちに記しけり
幼児の文字こそよけれ寒見舞
姉弟の指のよく似てさくら餅
斯かる夜は母在るごとし遠蛙
狐憑いて月に舞ひゐる男かな
しづけさに耐へて書を読む二日かな
身の内の夏野が消ゆる夜の雨
秋風の横顔ばかり人の中
猫に手を預けられゐて冬ぬくし
行春や埃うすづく文庫本
六月の花嫁真理よきれいだよ
桜蕊降るも一会といふべしや
十薬の日蔭育ててゐたりけり
早春や少女矢を射て息を継ぐ
道すがら聞く卒業歌しばし聴く
ひとり舞ふ神楽の鬼や冬社
啓蟄や膝ふくよかに結跏仏
天空にクラインの壺稲光り