《古書・古本の出張買取》 京都・全適堂 の日記
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藤田柊車『句集 中州』(狩俳句会)より
2022.04.29
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昭和62。
「狩」同人。第1句集。
初鏡座して鏡の奥も拭く
いわし雲佐渡と越後をつなぐもの
筆の穂を正して経を写し初め
磨崖仏見上げ遍路の息正す
祖父の墓洗ふ一升瓶の水
国宝の鐘の撞木に蝸牛
髪の冷え己が髪とも思はれず
草いきれ牧場つづきの屠殺場
流燈会母に遅れて父流れ
漉紙を売るにも正座紙漉女
騎馬戦の戦はずして総くづれ
白息が触れ白楽の朱唇仏
夜の桜昼の桜と見て飽かず
ごきぶりの知りつくしたる逃げつぷり
流氷の位置定まらず昼も夜も
丹頂のわれへ短く飛んで見す
人形の警官雪の最北端
朝市のたけのこ赤き土つけて
睡蓮を咲かせて沼の底知れず
もの思ふ歩巾となりて片かげり
初市の銭笊の揺れ鎮まらず
しばらくは波にただよひ盆のもの
恵方へとひと揺れ舳先定まりぬ
兎跳びして霜焼けの耳二つ