《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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平畑静塔『句集 栃木集』(角川書店)より
2022.06.26
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昭和46。第3句集。
桃の花こぼれし死後の長廊下
太宰忌の支線岐れて郷に入る
としよりの後手恐き稲雀
看護婦は春蚊捕へて血を見せず
母達や数珠繰るごとく栗を選る
天蓋に八面玲瓏大ざくら
前足の手をつきあはれ雪を這ふ
笛吹きて嫁どり知らす稗の秋
ダムのぞく霧の中より顔出して
花屑に手をやる髪に知らされて
たたへたる白息出して心吐く
露けくて蚊を合掌の音に打つ
花吹雪わが急診の先走る
多佳子忌や峯雲小突き合ひながら
草の花羊は蹴らず躓かず
月動くなり雪山の歩行者と
雪国が的雪つぶて粉微塵
青胡桃みちのくは樹でつながるよ
最上川田植を率ゐ田を率ゐ
棟木をば信じて雪の国に坐す
冬の夜に涸川白く流れだす
海苔舟に立ち上るなり風に勝ち
屋根楽になる雪掻もとび下りて
吊鐘の一打をゆるせ浮寝鴨
梅雨きのこ大東京に根を下す
茶摘女よ五尺足らずの身を揃へ