《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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飯田龍太『句集 忘音』(牧羊社)より
2022.07.17
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昭和44。
「雲母」主宰。第4句集。
風吹いて月よみがへる梅雨の町
バイブルは常に重き書夜の秋
秋の蝉まつはる入日解きがたし
落葉踏む足音いづこにもあらず
遺書父になし母になし冬日向
亡き母の草履いちにち秋の風
大根を抱き碧空を見てゆけり
冬の灯の消されてきえる児童の絵
山々のはればれねむる深雪かな
どの子にも涼しく風の吹く日かな
秋風に病躯うしろを見せてゐる
いづこにも冬日いちにち来給はず
左手より冷たき右手の月明り
絶壁に蒼空切られすみれ咲く
翼干すごとし日向の老夫婦
死者に会ふためのつめたき手を洗ふ
ひと通るたびに応へて春の瀧
淵へ淵へと極寒の眼かな