《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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泉田秋硯『梨の球形』(牧羊社)より
2022.07.28
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平成3。
「霜林」同人。第2句集。
Tシャツの胸の横文字知らず着る
宿直の一人のための虫しぐれ
露天湯に女入るたび月融ける
皮むいて梨の球形掌にのこる
コスモスへ跳び込みし犬呼んでゐる
日本海より風が来て日本晴
伐る話ある大榎小鳥来る
ジーンズの何と窮屈松手入
露といふ白一色も動きをり
浮子動かざれば秋色水に在り
本物の月曽根崎に近松忌
海時雨女坐りの駱駝立つ
百僧の経一僧の咳まじる
唇をひらくはなびら餅のため
黒よりも硬き白髪寒の極
いつぴきの鮒釣れてより春の水
春日や投網は空へ抛るやうに
鶏敗けて静かに息を吐きにけり
飛ぶものを見ず囀の森に在り
象の雲兎に化けし春野かな
原爆を知らざる高き新樹なり
濡れるため滝に近づく白を着て
白桃の冷えを加へし重さかな
鶏頭に佇てば直ちに犬坐る
碁仇の身の斜め癖秋日射
黄落や黄の一色は減らぬまま
初夢に女出て来て妻ならず
木樵来て谺華やぐ冬の山
鳥曇転勤他人(ひと)に決められて
涅槃図を上から下へ見て坐る
乾きたる音に新茶の秤り売