《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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『橋本鶏二集(自註現代俳句シリーズⅠ期10)』(俳人協会)より
2022.08.13
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昭和53。
「年輪」主宰。
ふる雪や機械しづかに鐡を切る
水馬はじきとばして水堅し
瀧風に巫女のあそべる巌かな
鳥のうちの鷹に生れし汝かな
菊の前静かにたまる落葉かな
冬濤の摑みのぼれる巌かな
秋燕の羽をたたみてながれをり
冷やかにただ一言の美しき
藁束に置きし砧の槌しづむ
若布刈海女帆綱に凭りて髪を梳く
雌狐の尾が雄狐の首を抱く
音もなく星の燃えゐる夜学かな
打たれたる雉子日輪を放れつつ
濡れてゐし雨の椿をいま憶ふ
石人の石の袂に冬の蝶
てのひらに吹きこんできし落花かな
花桃や逝きたるあとも母やさし
落慶や雁にのりくる一菩薩
仰臥位は天への正座囀れり
わが命つつみてゆるる家桜
ふる雪やすでに深雪の一伽藍
ゆく年や散華をはなつ僧の指
壁の絵の裏しんしんと雪の路地