《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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『大橋敦子集(自註現代俳句シリーズⅡ期8)』(俳人協会)より
2022.08.21
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昭和61。
「雨月」主宰。
生れたるのみのふるさと盆の月
日の匂ひある子の髪を洗ひやる
枯木中落つる月のみ色持てる
虹に立つ少女直ぐなる髪垂らし
ちる花に撮られゐる笑みつくりをり
降る雪に楽器沈黙楽器店
噴水に光と風の集れり
月鉾の月烈日に一閃す
わが夜長母の夜長と別にあり
雪沓をすつぽすつぽと抜き歩む
竈猫みごもりをりてふてぶてし
切尖を円心に立て聖菓切る
寒卵割りひとり旅ひとりの餉
日本にひらがなの美や星祭
七五三叔母の最も化粧ひたり
鵙鋭声身の空白を貫ける
水仙を喪の花と見て喪の床に
まくなぎの跼めば跼む辺(へ)にまとふ
我が愚直ハンカチの稜合さねば
竹皮を脱ぐ半分を脱ぎ忘れ
団扇さへ軽きを欲りて母老いぬ
くちなはを見し目のどこか汚れたる
旅人に焼藷売の来る埠頭
安来節安来の田水沸けるころ
詩碑の詩をとりに来るよな雪螢
凍蝶の失ひゐたる重心よ
玉虫とぶ磁祖民吉の窯跡に