《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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金久美智子『句集 くれなゐ深き』(角川書店)より
2022.11.15
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2012年。
「氷室」主宰。第6句集。
つま先を落葉に沈め逢ひに行く
雪女詠みしは疾うにみまかりぬ
蝋梅の咲き満つ土間や窯始
独楽の紐垂らして兄に従へり
御神渡りまだと言ひをる寒さかな
赤松の向う黄砂の弓ヶ浜
気忙しく扇つかひて渇きけり
秋扇閉づることさへ忘れあり
海女の衣の解けばただの白き布
花見舟水の高さに目の慣れて
空と海雲も眩しく夏休
垂直の壁懸命の秋の蝶
うたた寝の蹠をさなや受験の子
参禅の名札四枚冴え返る
首都の夏光と影とエスプレッソ
遠泳の真顔つぎつぎ到着す
蝉涼し寺を隣家に持つゆゑに
指に梳く髪に山の香ひややかに
烏瓜壁に所を得たるかな
金剛力士二体や北風の吹き通る
息吸うて花菜畑に噎せ返る
溯る堤どこまでさくらかな
亡きひとの当月の句や花朧
草朧夜明の匂ひして来たり
頭を高く掲げていまだ穴惑
色鳥や尾根にて分かつ京と奈良